ジムのヨガ入ってみた

以前から時たま行っていた、閑散としたジム。
時間帯によっては、3時間以上もプールを独り占めできるほどだ。


カウンセラーにヨガを薦められて以来、そのジムでのヨガレッスンに参加しようと意気込んで、スタジオの扉の前まで行った。
しかし、過去のイヤな記憶を思い起こしたが故に2度ほど辞退していた。
今日も同じように意気込み、以前よりは少し早めの時間に到着した。
私が迷いを見せると、受付にいたスタッフから誘われる。
「寒い中、せっかく来たんですから」
「せっかく」という言葉に誘われるがままに入ってみたスタジオには私を含めて3人の客がいた。


初めての客に配慮してか、レッスン前半はゆっくりと進んだ。
デイケアのヨガではやったことのない動きを課題されたが、進行がゆっくりだったので、なんとかなった。
さらに腕立て伏せの準備状態に近いポーズも言い渡されたが、体中を振るわせながらなんとかついていこうとした。


しかし、異変は後半に起きた。「では、パワーヨガ…」のところだけ聞き取れたと思った次の瞬間から、前半に一度教わっただけの動きを、素早くひたすら繰り返す時間がしばらく続いた。
ついていけなさ加減に戸惑いながらも、これは慣れればなんとかなるものなんだと自分に言い聞かせ、必死で付いていこうとした。だが、周囲との差はどんどん開く。必死で「気にしちゃダメだ、気にしちゃダメだ、きしにちゃmdd」と脳内で繰り返す。
運動による汗よりも、冷や汗をたくさんかいたような気になったころ、不安と緊張の時間が終わり、リラクゼーションセッションに入った。


そして、事件は起きた。


屍のポーズと言われる、大の字に近い状態で横たわった状態をしばし味わい、もう少しで入眠しようかというときに、遠くで声が聞こえた。
「では、親指から力を入れていきましょう」
指示に従って、身体の各部に順番に力を入れていく。と言っても、腕より体幹に近い部位になると、その感覚がわからず、入眠前の感覚の中で戸惑っていた時だった。
それは、突然やってきた。
遠くで聞こえていたと思われた声は、しかし、目の前にいるはずのインストラクターから発せられていたのだ。しかし、私の脳は、その内容を掴み漏らすのに充分な状態だった。
「……たら、力を抜いてくださーい」
次の瞬間。






パァン!






どうやら、インストラクターが合図代わりに彼女自身の手を叩いたらしい。
突然の大きな音に驚き、私は「ひっ!」という声を上げていたように思う。
その後の内容はよく覚えていない。
起き上がっていいよと言われて、なんとか起き上がる。
お疲れ様という声と、他の2人の客がスタジオを出るのを見て、やっとスタジオを出ていけた。
外にいた笑顔のスタッフに「いかがでした?初めてのヨガ。」と聞かれた、その隣では、インストラクターが「ずいぶんヤラれてますね。」と心配そうにしている。
しかし私の口からは
「いや、も、も、もう、いや、あの、あれ」
とまともな言葉は出てこなかった。


なんとか、ロッカールームに入り、そそくさと着替えを済ませる。
そうして、外に出る儀式を済ませると、幾分落ち着いたようだ。


パニックループにはいりかかる脳を必死で押さえながら、私はスタッフに、ここでヨガをしたいと言った理由を、素直に説明した。
着替えを終えたインストラクターが出てきたので、同様に事情を説明した。
インストラクターはかなり怪訝そうな顔をしていた。そりゃそうだ、新規顧客にいきなりクレームを付けられて喜ぶサービス提供者はいるまい。
しかし、彼女は、必死で私に情報をくれた。
私が求めているヨガは、一つ一つの動作を確実にやっていくパターンであり、大抵のフィットネスクラブやジムで行われているそれでは、要求を満たすことができない。
香川県内では、Kというヨガの先生と、Rというフィットネスクラブで教えている、「おばあちゃん先生」と呼ばれるヨガインストラクターが、そういう「宗教的」なヨガをやっていると記憶している。と。


目的が違うものに当たってしまったのなら、仕方ない。今日貰った情報を手がかりに、自分に合うものを探し続けるしかないだろう。