せっかくなので劣悪な体育教師がまともな指導をできない構造をPCの操作方法教示に置き換えて考えてみる。

今の部署で、時々、他人にPCの操作方法を教えることがあるのだが、そこで頭を抱える事態に遭遇したことがある。
ショートカットキーなどで、よく使われる「同時押し」という奴だ。
たとえば、Windowsの場合、大抵のソフトで以下のショートカットキーが使える

  • Ctrl+S:「保存」
  • Ctrl+C:「コピー」
  • Ctrl+X:「切り取り」
  • Ctrl+V:「貼り付け」

これらのショートカットキーを入力してほしい時に、ある程度慣れた人になら「コントロールエスで保存ですよ」などといった言い方をする。
教えることに不慣れだったワテは、その日も操作方法を教えている文脈の中で、そういう風に言い、ショートカットキーを入力して貰おうとした。
しかし、そこでその日教わっていた彼は、こちらが予想しない動きをしたのだ。
それは

  1. Ctrlキーを押す
  2. Ctrlキーを離す
  3. Sキーを押す
  4. Sキーを離す

という手順だった。
そこで、「ああ、同時に押すってことがわからないんだな」と思ったワテは「コントロールエスを同時に押してねー」と言った。すると彼は次のような動きをした。

  1. 片手の指を2本出す。ちょうどじゃんけんのチョキの様なカタチ。
  2. CtrlキーとSキーの上に2本の指をそれぞれ置く
  3. 真剣な目をして、この2つを同じタイミングで押す

ちょっと面食らったワテは、「ああ、同時押し用のキーを先に押したまま、目的のキーを押すってのがわからないんだな」と思ったので、「コントロールキーを押したまま、エスを押してね」と言った。すると彼は次のような動きをした。

  1. 片手の指を2本出す。ちょうどじゃんけんのチョキの様なカタチ。
  2. 一方の指をCtrlキーに置いて、押下する。
  3. そのままの状態で、Sキーを他方の指で押下する。
  4. 上半身を反らし、釣りで魚を揚げるときのような大げさな動作で、一度に2つのキーから指を離そうとする

かーなーりびっくりしたワテは、「OK、ワテが今から言う通りにやってくれい。左手の人差し指を立てて〜。そうそう。その指でコントロールキーを押す。で、そのままそのままー。押したままねー。じゃぁ右手の人差し指立てて〜。そうそう。その指で〜エスのキーを〜〜〜〜ポン!と叩くっ! はい。ポン! そうそうそうそう」
まるで幼稚園児にお遊戯を教えてるような言いぐさだが、ワテも向こうもかなり真剣である。
かくして、十分ほどで彼はショートカットキーの入力方法を覚えた。
PCの操作が当たり前になってる人にとっては、何も考えずともできる動作であっても、まったくその動作をやったことのない人に教える時には、その動きの一つ一つをつぶさに教えなければ、できるようにすることは不可能なのである。
昨日、ふじなまさんからいただいたコメント

「体育・スポーツが得意で教師にちやほやされたスポーツ選手」が各県の「国体強化策」で採用されて教師になってたりする

と、あったが、そうした経験を経て教師になった人たちは、スポーツが不得意だったり嫌いだったり、増してやスポーツに対して恐怖を抱いてるような人たちと交流する機会は0に等しいか、もしあったとしてもとても稀だろう。
つまり、彼らはたとえば「ボールを投げる」とか「跳び箱を跳ぶ」とか「息継ぎをしながらクロールで泳ぐ」といった動作が、当たり前のモノとして身についているわけであるが、それらが当たり前のモノとして身についていない人たちのことを知らないのである。よしんば知っていたとしても「なんかトロい変な奴」とか「笑える奴」といった認識しかしていないだろう。
彼らがそんな認識を持ったまま、体育教師になればどうなるだろう。今まで侮蔑的な言葉で気にも留めなかった相手に、自分が当たり前だと思っている動作を、つぶさに説明しやってみせ、やらせてみせて、おかしいところを一つ一つ分析して、対策を与えなければならないのだ。
それができるなら、彼らは「劣悪な」体育教師にはならないだろうが、哀しいかなワテが経験してきた限りにおいては、そんなことができる教師は1人を除いて存在しなかったのである。
これから体育教師を目指す皆さん、そして今これを読んで「なんだよ、このトロい奴。何時まででも恨み言書いてんじゃねーよ」と鼻をほじりながらムカついてる現役の体育教師さん?
貴方が常識だと思っている動作をできない子供と対峙したときに、私が上に書いたようなレベルで説明したり、できるようにする自信はありますか?
PCの操作において、私が常識だと思ってた動作がグローバルな常識じゃなかったように、貴方が常識だと思っている「ボールを投げる」という動作もグローバルな常識ではないということを肝に銘じていただければ、幸いに思います。